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当社の創業者中田岩次郎の伝記が、小学校の教科書に掲載され石川の子供たちに読まれています。岩次郎が単に経済的成功を収めた商人としてのみならず、業界と地域社会と食文化の発展に貢献し、かつ地元の皆様に、翁の生き方・思想に教育的価値をも認めていただいた結果であると喜んでいます。


「天狗乃肉」というものがそれほど金沢、石川の人々に親しまれすでに文化として郷土に根付いている証とも言えるでしょう。われわれ従業員には大変誇らしいことです。以下に、天狗ハム本社に立つ中田岩次郎の銅像と教科書の文章・挿絵をご紹介いたします。



『天狗と肉』 「みんなのどうとく」  五年  石川県版  学研刊



中田岩次郎は、明治二十七年三月、能美郡安宅町で生まれました。父の岩次は、船で荷物を運ぶ回船業をいとなんでいました。ところが 明治二十九年の大雨で、家と倉庫を失い、さらにその後。五百石積みの持ち船が、事故にあってこわれてしまいまた。

岩次は、回船業 を続けたいと思いましたが、ちょうどそのころ、北陸本線が開通し、鉄道で荷物が運ばれるようになったこともあって、岩次郎が十四歳に なったとき、金沢で肉屋をはじめました。それで、岩次郎も中学校を二年でたい学して、店の手伝いをするようになりました。

この当時は、成せきがゆうしゅうでないと中学へ進めなかったので、受け持ちの先生はたいへんに残念がり、たい学を思いとどまるよう にといわれました。

「先生、ありがとうございます。わたしは、父といっしょに肉屋をします。そして、日本一の肉屋になります。」と何度もお礼をいいました。
「そうか、残念だな。金沢に行ったら、しっかりがんばれよ。」
先生は、岩次郎のかたに手をおいて、はげましてくださいました。



肉屋をはじめた岩次郎たちにとって、大きな問題が二つありました。今のような冷ぞうこのない時代に、肉のほぞんをどうするかという ことと、肉を買ってくれる人が少ないことです。とくにこまったのは、肉を食べる人が少ないことです。地形的に海にめぐまれていた石川県 では、牛やぶたの肉はぜいたく品とされていました。

(どうすれば、買って食べてもらえるだろう。)

店をとじたあと、おとうさんと岩次郎は、よく話し合いました。しかし、いい方法はなかなか見つかりませんでした。ある夜、おとうさんがぽつりとつぶやきました。

「店の名前だ。」
「えっ、何ですか。」
「店の名前を知ってもらうのだ。ここは、天狗にかかわりあるところだから、天狗乃肉としよう。」
「それで・・・・。」
「わしが天狗の面をつけて、ろばにのる。岩次郎、お前は車に肉を積んで、あとからついてこい。
天狗の肉がうまいことを、みんなに知ってもらおう。」

おとうさんは、まっかな天狗の面をかぶり、手に大きなうちわを持ってろばにのり、大声で店の名前をさけびました。
「天狗の肉だよ。うまい肉がたくさんあるぞ。」


岩次郎は、大八車にたくさんの肉を積んで、あとからついて行きました。数日のあいだ、店の前に行列ができました。しかし、またもと のとおりに、売れなくなってしまいました。

「おとうさん。肉をよろこんで食べるのは、どんな人たちでしょうか。」
「うむ・・・。それはわかい男の人だと思うが・・・・・・。」
「そうです。そのわかい元気な男が、たくさんあつまっているところがあります。陸軍の演習場です。」

その当時、富山県東砺波郡城端町の立野が原に、第九師団の演習場がありました。

「でも岩次郎・・・・・・。富山まで遠いぞ。」
「だいじょうぶです。わたしが行きます。」

これは今売れるだけでなく、しょう来、軍隊をやめた人が家に帰れば、肉のおいしさを、家族や友人に話してくれるだろう、肉のよさが 広まるだろうという考えもあってのことでした。



こうして、岩次郎の富山行きが決まりました。明治四十二年の夏のことでした。大八車に、何十キロもの牛肉を積み、立野が原まで十里 (約40キロ)の道を運ぶのです。牛肉には塩をふって、かちかちになった雪でかこい、そのうえを二重、三重に布や油紙でおおいました 。それでも、昼は暑さでいたみやすいので、夜運ぶことになりました。

金沢を出発するのは、午後十時。たよりになるのは、カンテラのあかりだけです。道は、ほとんどがでこぼこ道で、鉄の輪の大八車をひくことは、たいへんな力仕事でした。一度のおうふくで、わらじが五 足もいりました。週に二、三度も運ぶことがありました。

そのころから、人々は天狗の肉を口にすることが多くなりました。

岩次郎は、後に、(どんなものでも、そまつにあつかってはいけない。感しゃし、生かして使うべきだ。)という信念にしたがって、牛やぶたを、生肉として食べるだけでなく、ほぞんのきくハムに加工したり、ほね、皮、あぶら、内ぞうまで有こうに使いました。これは、日本で最初のことでした。

そして、昭和二十八年に、農林大臣の表しょうをうけました。その席上、岩次郎は、大八車で富山へ行った四十年前のことが、きのうのことのように思え、なみだをこらえることができませんでした。

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