たぶんもっとも目にする機会の少ないPGCCだろう。流通ルートがネゴシアン、ボリュー・マヌー社のみに限定されているからだ。投機性に晒されることがないため、価格は安定して安く、消費者にはありがたい。だが、高価格追求レースを格付に要求するが如き最近の流れを見ると、このような無競争状態は不利だ。オーナーであるフィリップ・カステジャもそのことは意識している。しかし「もともとこのシャトーは、自分の母方の持ち物。母はボリュー・マヌーの大株主だから、こういう状況になっている。もう80歳になるけど、彼女が元気なうちは変更できない。専売契約は問題も多い。日本でもそうだ。日本の輸入元とは30年以上のつきあいだが、市場浸透度が低い。だから07年の春には日本に行って、どうすればもっと売れるようになるか協議してこようと思うんだよ。」ランド地方の出身で、3世紀にわたってポイヤックに住んでいるカステジャ家は、8つものシャトーを所有する。有名なところでは、ポイヤック5級であるランシュ・ムーサとバタイイ、ポムロールのドメーヌ・ド・レグリースがある。こうして並べてみると、独特のシブさがある味わいを共通項としているのがわかる。堅実な個性があり、アペラシオンの特徴を素直に生かした、派手さがなくても飽きない、家庭消費向けの味。圧倒的な高品質というわけではないが、期待通りの質をコンスタントに維持する。信頼のブランド。ラベルの独特の地味さも、濃いめのオークのパネルウォールやテーブル、ボルドーレッドのカーペットといった、典型的にクラシックな調度の、明かりを落としたダイニング・ルームに置くと、浮いて見えることなく、その場にきれいに溶け込む。

畑は珍しくも単一区画で、サンテミリオンの台地にある。石灰岩の上に30センチほどの薄く重い粘土が載る土壌だ。緊張感あるミネラルを中心にした味わいは、要素が複雑で、ひとつひとつの要素の粒が小さく、気品があり、プルミエの格付ならではの高貴さを漂わせる。それでいて神経質にならない骨の太さと腰の座り方があり、トロロン・モンドの斜面下という畑の立地と、平均60年という驚くべき樹齢の高さを感じさせる。地道に品質向上への努力は行っており、遅ればせながらも2000年にセカンドワインを導入した。グランヴァンの生産本数3万本に対して1000本という控えめな選別に過ぎるが、それでも、セカンドワインがないよりはいい。98年からは、ドゥニ・デュブルデューをコンサルタントとして迎えた。ワインの方向性を考えると、正しい選択である。彼との合意点は「正統性の保持」だというし、世間の雑音に気をとられることのない、着実な発展が期待できる。流行に騙されない古典的なボルドー愛好家に勧めたいワインだ。