初めて飲んだ時の感動が忘れられない

ヴィリ・シェーファー家のワインとの出会いは、15年ほど前にこのワイングートから送られてきた数種類のサンプルを試した時に溯ります。その時、その品質のあまりの素晴らしさに圧倒されてしまいました。その後、初めての訪問では、1m90cmはあろうかと思われる大柄なヴィリ　シェーファーが、熱心に説明してくれ、私どもにとって25年前のハインツ　ワグナー博士家、18年前のフリッツ　ハーク家への訪問と同様、久しく忘れかけていた感動を呼び起こしてくれました。1706年よりワイン造りを始めたシェーファー家は、モーゼル中流域グラッハ村にドームプロブスト(1.8ha)とヒンメルライヒ(1.9ha)、ヴェーレン村にゾンネンウーア(0.1ha)の、合わせて約3.8haの畑を所有しています。一番若い樹齢でも25年位、古い樹齢の樹にはいつ植えたか分からないものもあり、特にヒンメルライヒの畑は区画整理がされていないため植え替えておらず、古い樹が多くなっています。畑の中で特に傾斜のきついところは、周りの畑に比べてエクスレ度は10～15度低くなりますが、その代わり味に落ち着きのあるワインが出来ます。ドームプロブストの急斜面の目の前にワイングートがあり、非常に小規模で限られた数量しかワインを造っていません。シェーファーが最も大切にしていることは、他の国にはないスタイルであるということです。ボリュームがあり構成がしっかりとした作柄になったとしても、繊細で綺麗な酸があるものにしたいと考えています。その味わいは土壌にシーファーと微生物とによってもたらされています。肥料には草を切り刻んだもの、家畜の糞、粉砕した葡萄の枝等を使い、微生物が多く生息出来る空気を含んだ柔らかな土壌を大切にしています。

とても入手困難なワイン

シェーファーは、「息子のクリストフが私の後を継ぐと決めて、とてもうれしい。」と言い、息子の話になると少し照れながら父親の顔を見せてくれました。そのクリストフは'02年夏にガイゼンハイムの醸造学校を卒業し、本格的にワイン造りを手伝い始めました。以前ナーエのディールや南アフリカ、カリフォルニアなどでも修行し、ドイツだけでなく世界のワインに対する広い視野を持つことが出来たと言います。しかし海外で修行している間もリースリングに対する興味を失うことは無かったそうです。心強い後継者が出来、今後も大いに楽しみです。シェーファーのワインは、ワインライターのスチュアート　ピゴットやロバート　パーカー　Jr.らに絶賛され、とても入手困難なワインとなっています。毎年のことですが、全世界的に人気が高すぎるため、私どもが希望する数量の1/3も入手できない状況が続いています。数あるドイツの生産者の中でも、彼のように、葡萄も生ってないうちに全てのワインが予約されてしまうのは、ほんの一握りの人たちのみです。今や彼もすっかり有名人になってしまいましたが、そのことについて、「世界に自分のワインが認めらるのはとてもうれしい。でも、自分にとっては一日のうち半日でも数時間でも畑に出て働くことが出来ることに、何よりも喜びを感じる」と、いいます。ドイツワインファンのみならず、赤ワインのファンまで魅了してしまうほどの感動的な味わいがあります。

パリの星付きのレストランでも

ロバートパーカーJr.「ワールドグレイテストワインエステイト」に掲載されました。最近では、パリの星付きのレストランでも使われており、ソーテルヌの様にシュペートレーゼやアウスレーゼを使うお店が増えてきています。

グラーヒャー・ドームプロブスト リースリング アウスレーゼ APナンバー11 2005年 ヴィリ・シェーファー

ベルンカステルとヴェーレンの間にある銘醸畑のグラーハ・ドームプロブスト。「焼きリンゴ、バニラの上品な花の香り。口に含むとしっかり集約されたリンゴを想わせる果実に、ブラウンスパイスのフレーバーを感じます。フィニッシュには生き生きとしてジューシーなフルーツが感じられます。たとえ（少なくとも今のところは）複雑さと言う点では最高ではないにしろ、最後まで驚く程の透明感とピュアさを保っているワインです」とワインアドヴォケイト誌も絶賛。

このワイナリーがシェーファー家の所有になったのは、つい1950年のことである。現在の所有者は、ハンサムで髭を生やし、眼鏡をかけ、自信がにじみ出ているヴィリ・シェーファーと、2001年からは息子のクリストフ・シェーファーが加わっている。

このワイナリーが一般大衆のアンテナに届かない理由は、単に生産量があまりに少ないからだ。2.7ヘクタールという極小の所有畑から、たったの2,200ケース程度しか生産されていない。

私はいつも、シェーファーのリースリングは快楽主義者のためのワインだと考えてきた。けばけばしい、楽しめる、それでいて並外れて複雑で食欲をそそるような、ただひたすら人を動かさずにおかないワインなのである。ヴィリ・シェーファーも今ではそんな快楽主義者の一人であるように見える。息子がワインづくりに携わるようになり、彼は新車のポルシェを駆ってモーゼルの裏道を走り回るようになった。彼の最も偉大なワインはいまだにグラッヒャー・ドームプロブストとグラッヒャー・ヒンメルライヒである。

いちばんよく知られている畑はヴェーレナー・ゾンネンウーアだが、グラッヒャーのワインのような荘厳さはないようだ。これは純粋さ、完全さ、慎みのあるワインだが、その力強さと強烈さは過小評価されている。若いうちに華々しいほどの出来を見せるため、懐疑的な人は熟成に値しないワインだと切り捨てるかもしれないが、私が味わった昔のヴィンテージには、衰退の危険は全くないように感じられた。

「ザ・ワールド・グレイテスト・ワイン・エステート　日本語版」ロバート・パーカー　Jr.より