ケブラダ・デ・マクールは90年代後半に彗星のごとく現れた、チリ屈指にスーパープレミアムワインを作り出すブティックワイナリー。ファーストヴィンテージ「ドムス・アウレア1996」は激賞の中リリースされ、当時のワイン業界に多大なインパクトを与え、一躍注目の的になりました。

初代醸造家はイグナシオ・レカバレン氏。イギリスのワイン専門誌『デキャンター』の、『21世紀に活躍するワイン業界の100人』という特集の中で、『世界の4大醸造家』に選ばれたチリ最高のエノロゴの1人です。4年の歳月をかけてワイナリーの礎を強固にした後、2000年にコンチャ・イ・トロの仕事に集中するためドムスを去ります。彼の偉業を継ぐ者、彼ほど秀逸な醸造家を見つけるのは困難を極め、2001年ヴィンテージはとうとう醸造家不在のまま造られるという前代未聞の事態に陥ってしまいます。2002年の収穫が終わり、醸造が始まったときにようやく現醸造家ジャン・パスカル・ラスカーズがあらわれます。彼はボルドー出身の青年で、ケブラダ・デ・マクールのテロワールに魅了された一人です。「チリこそ自分が探し求めていた土地、カベルネにとって理想の地」と悟りを開いたJPラカーズ。ここからドムスのセカンドシーズンが始まります。

ケブラダ・デ・マクールの土壌はサンティアゴから一番近い高峰、サン・ラモン山が風化浸食し、堆積したもの。アルト・マイポにある最高の畑にはカベルネ・ソーヴィニヨンをはじめとして、カベルネ・フラン、メルロー、プティヴェルドなどが栽培されています。標高によって3つの区画に分けられ、さらに網の目のように細分化し、収穫時には実際にそれぞれの70の区画のブドウを試食し、キャラクターによって選別されます。それを別々にプレス、さらに発酵槽の中でも上澄み、中間部、最下層の3つに分けられ、産地の異なる5～7種の樽で熟成し、最終的に70以上のキュヴェが出来上がります。それらをドムス・アウレアにふさわしい味わいにするべく新潮にブレンドが行われます。またその中でもドムスとは異なるエレガントなキャラクターのキュヴェが選りすぐられ、それがステラ・アウレアとなり、3つのワインが出来上がります。これがドムスの複雑さの所以です。

ドムス・アウレア 2008年 ヴィーニャ・ケブラダ・デ・マクール

カベルネ・ソーヴィニヨン86％、メルロー7％、カベルネ・フラン5％、プティ・ヴェルド2％。非常に凝縮した濃密な色調。豊満な黒い果実のアロマ、その果実の中に溶け込んだキメ細やかなタンニン、アフターにカフェやタバコのようなフレーバーが長く続く。アルコール度数は高いもののエレガンスをしっかりと備えている。

イグナシオ・レカバレンからJPラカーズになり大きく変わったことは、
『選果台の導入・・・ブドウの選別をより厳しく行う事で、より完璧なブドウだけを醸造することが可能になった』『ミント香との決別』『低温マセレーション、ポストマセレーションの導入・・・香りと色素の抽出がより強くなった』『マロラクティック発酵をオーク樽で行うようになった』

JPラカーズ氏のメッセージ
チリのプレミアムワインを作り出すワイナリーは、その多くが大手資本の傘下にあり、多額な広告費をかけて宣伝活動を行います。しかし、ドムスは広告宣伝など一切行いません。またメジャーなプレミアムワインは、「チリで造られたフレンチワイン」である一方、ドムスは「フランス人によって造られる本物のチリワイン」、「クレージーなフランス人が造ったクレイジーナワイン」です。個性のはっきりしたワインがあるため、全ての皆様に好んでいただけるとは思います。ただ「ドムスは何かが違うぞ」と、そのテロワールを感じて貰えたら嬉しいです。

JPラカーズは2002年に畑の周りにあったユーカリの木をほとんど伐採し、それまでケブラダ・デ・マクールのひとつの大きな特徴であったミント香との決別を図りました。理由はユーカリはドムスのテロワールの一部ではない。熟成していくと果実味がだんだん落ち着いていくがユーカリに由来するミント香はそのまま残り、味わいのバランスが崩れるからとの事。なぜチリのワインはミントの香がするのか、ミント香はどこから派生するものなのかという問いに対して、ユーカリの実が落ちて水が流れ根から吸収される事による影響が70％、日光と風によってフレーバーが移る事による影響が30％。面白いことにミント香はブドウの状態では感じられず、アルコール発酵後に出てくるフレーバーによるものだそうです。

ケブラダ・デ・マクールはワインメーカー不在の時期、天候不良による不作の年など、様々な障害に見舞われてきました。そんな不遇の時でも偉大なテロワールは揺らぐことなくそこにあり、ワイナリーの行く末を見守ってきました。JPラカーズはこう言います。チリでは灌漑をしているが、ケブラダ・デ・マクールでは暑い夏に2～3回使用する程度。それが可能なのは地中深くに地下水が流れており、その水を地中深くまで伸びた根が吸い上げてくれるから。灌漑は保険のようなもの、灌漑をすれば生産量は上がるが、ワインの質は落ちてしまいます。私がドムスを造っているのではなく、このテロワールがドムスを生み出すのです。私たちはそのサイクルの一部にすぎない。つまり私たちもドムスのテロワールなのです。