ボトルを開けてワインを飲み残し、そのまま放って置くと、
酸化していくことはもうどなたもご存知の事と思います。
開けてからワインは空気との接触によって酸化が始まり、
その酸化作用によって香りと味わいが開いてきます
酸化作用による香りと味わいの開花 → 酸化作用による香りと味わいの成長 →
→ 酸化作用による風味の劣化 → 酸化作用による味わいの消失
そして、この過程が、ボトルの個体差によって短時間で起こるものと
何日もかけてゆっくり起きるものとがあります。
8月12日号のメルマガのご挨拶で、私が6月23日に
フランスで1958年のラトゥールを開けて、その飲み残しを
その後、私はこの58年のボトルをリュックサックに詰め込んで、
ボルドー → パリ → ヘルシンキ → 大阪の自宅
まで、揺らしながら持ち戻り、その後、常温でストックルームに
放置すること、30日。
7月23日ごろ、ボトルの存在を思い出し、どうなっているか、
恐る恐る飲んで見ました。
その時、
オ!意外と果実の風味がまだまだ残っています。
口当たりは、まずまずなめらかさもあります。
噛み噛みするとうまみすら感じられました。
後口にやや苦味と胡桃の香りが出てきていて、ゆっくりと落ちて
いるようですが、複雑な香りはまだまだ生きており、
ラトゥールは健在なり。
生まれてからほぼ半世紀、生命力の強さに驚かされる一本でした。
と書いたのですが、その後、そのラトゥールは我が家の真っ暗な
ストックルームに放置されることに・・・。
あくまでも飲み残しを取り置きし続ける私でした。
その日から瞬く間に10月9日(日)を迎え、仕舞い込んだ
こともすっかり忘れきっていたその夜。
夕食にハンバーグを作りまして、ジュ~ジュ~焼けて
バターと肉汁の芳しい香りに酔いしれながら、
「おっと、特性ソースを作らなくっちゃ」
と思いつつ、料理用の赤ワインを探したところ、「ない!」
あちこちストックを見たのですが、とにかく一滴も「ない!」
探し出したのが、その日で抜栓後3ヶ月と17日経った58ラトゥール。
私は恐る恐るこのボトルをISOグラスに傾け全部で40ミリほど
残っていたラトゥールの香りをかぎました。
ポートワインに近い香りになっていましたが、例の「臨終香」が
殆どありません。
というか、7月23日に感じた胡桃のような香りが感じられないといいますか。
グラスで感じる事がなくても、口に含んで吐いた後、戻り香で
がっと返って来ることも多いので、飲んでみました。
「・・・・・・・。」
おかしい、あるべきはずの臨終香が戻ってこない。
恐ろしいことに、58ラトゥールはまだ劣化しきっていなかったのです。
こんなことあっていいものかどうか、もはや私には理解不能。
しかし、おしゃかになっていなかった事だけは確かで、
まだストラクチャーが感じられる状態でした。
あな恐ろしや、シャトーラトゥール58。
こんなシブトイ名門古酒でハンバーグソースなんて
作っちゃったらどうなるのでしょう。
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