- 著者 : 寺島優(著)
- 出版社名 : 草思社
- 発行日 : 2020年12月
- ISBN : 9784794224811
- 中村哲という俳優兼歌手がいたことを覚えているだろうか。
もう忘れられている存在かもしれないが、戦後ある時期の日本で一世を風靡した存在だった。
カナダ生まれの日系二世で英語が堪能、そして本格的に声楽を学んだ歌のうまい歌手。
とくにアメリカ占領下の戦争直後の昭和二十年代、そしてその影響が残る三十年代においては
同種の二世タレントがもてはやされたが、そのなかでも傑出した存在だった。
この本は氏の息子である著者が父親の事績をたどったノンフィクションであり、
あまり紹介されていない終戦後の占領日本を関係者取材や父親の遺した多くの資料、
写真類や関係資料を読み解いて書き表した本である。
中村哲(さとし)は1908年カナダのバンクーバー出身の日系カナダ人二世。
声楽を学び、来日翌年の41年に藤原歌劇団『カルメン』でオペラ歌手としてデビュー。
42年には東宝と専属契約を結び俳優としても活動。戦後は英語力を生かし、
進駐軍クラブで「日本のアル・ジョルスン」と呼ばれて人気を博す一方、
『レッド・サン』など数多くの国際的な合作映画に出演。
また、海外ミュージシャン日本公演の司会やCMモデルなどでも活躍した。1992年没。
簡単にまとめれば以上のようになる。しかし、カナダと日本の間は戦争で敵対関係にあり、
戦争時代をはさんでとても複雑な状況に立たされた。これは多くの日系移民が直面した問題であった。
中村哲はその時代状況をたくましく、持ち前の陽気さと人の好さで逆手に取って生き抜いた男であった。
家族を大事にし、良い友人知己を得て、寿命を全うするまで戦後日本の芸能界で個性を発揮しつづけた。
『モスラ』や『美女と液体人間』などの東宝のSF映画の常連、あるいは『東京暗黒街 竹の家』
『東京ファイル212』といった日米合作映画になんとなく怪しげな三国人役で出演している。
一時のジャズブームでは進駐軍クラブを中心に都会のキャバレー、クラブで売れっ子だった。
今でも続く占領軍の影響、植民地日本のアメリカナイズされた文化のルーツを知ることはとても興味深い。
何がその時おきていたのかの検証に役立つだけでなく、面白い評伝として傑出している。
写真資料を見るだけでも一見の価値がある。※本データはこの商品が発売された時点の情報です。
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