- 著者 : 高橋三千綱(著)
- 出版社名 : 青志社
- 発行日 : 2021年11月
- ISBN : 9784865901269
- 2021年8月17日ガンと肝硬変によって73歳の生涯を閉じた作家の最後のエッセー集!
媚びず、群れず、孤高に生きた!
何事につけ不精で面倒くさがり屋なので、生前整理なんて考えも及ばない。それより私は生きるだけで必死なのである。
ある時は強く、ある時はやさしく、ある時はさ迷って--。
自由人、高橋三千綱の本領がここにある。
芥川賞受賞後、流行作家として時代を疾走して逝った最後の無頼派。限られた時の中で遺した、帰らざる日々をめぐる「幸福道」
生前整理は死んでから
毎日が必死で生きていると同時に、毎日が生前整理なのである。自然に任せているだけで周囲の物が淘汰されていく。先日もパリ行きの資金に少しでも加算しようと古本屋を家に呼んで、埃をかぶっていた本を売り払った。稀少本もあったが、それは家人にとっては全く意味をなさないものであった。それらをあわせるとパリ行きの航空券代になった。ただし酒代には足りなかったので、ゴルフのコンペで得たブランド品のバッグを売ると10万円近くになった。生前整理は実に合理的にできている。
私の母は85歳まで生命保険の外交員をやっていた。(略)
またやろうかと提案したら、もういい、代わりに戒名を息子のあんたが作ってくれといわれた。ついでに私の戒名もつくった。それが親子の生前整理であった。
6年前私は胃の末期ガンを宣告されたが、治療は拒んで風のおもむくままに生きている。先日の検査ではガンが消失していた。ガンを宣告した医者は、あっけにとられていた。人生とは面白い。それで、生前整理は死んでから考えようと思っている。
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